入院の準備って結構ある

 

 

 診断されてもすぐに手術できるわけではない。病院によって検査の種類も違うし、いたるまでの期間も違う。CTまではクリニックにあるけれど、MRIは病院にないので、別の総合病院の予約を入れて検査を受けなくてはならない。半日仕事だ。

 

 私の場合、手術にたどり着くまで紆余曲折があったこともあり、さらに両側だと時間がかかるので手術枠もなく、最初に診断されてから手術まで2か月半かかることになる。がんは1センチまでは時間がかかるけれど、1センチが2センチになるのは早い、ということもあり、安心のためにホルモン療法を始めては?ということになった。

 

どの程度、副作用が出るかも調べられるのでとタモキシフェンという薬剤を飲み始めた。閉経前の乳がんで、ホルモン依存の乳がんの場合、術後の標準治療だ。がんのエサとなるエストロゲンの産生を抑えるもの。いわゆるホットフラッシュやのぼせ、多汗など更年期障害などが主な副作用。こればかりは人によるそうで、つらくて続けられない人もいればそうでもない人も。自分がどっちになるかは当然わからない。幸い仕事を続けつつの入院準備期間中にはさほどの副作用は感じなかった。

 

 実は人生初の入院。なので何を用意すれば?だった。病院でしおりをもらった。コップ、ストロー、タオル、お箸、食器洗剤、スポンジ、シャンプー、リンス・・・けっこうある。

 背中や腕におけるクッションとか、お気に入りの枕も必須といえる。片側の方は抱き枕も大活躍するそう。(あとはWi-Fi環境の有無、大事。)

 

テレビは見れても、WIFIはいる。やっぱり病院内は電波が弱い。ネットサーチのし過ぎはダメだけれども好きなものを見たり、情報交換したり、何より仕事の(仕事バカ)進捗を知っているだけでどれだけ心が穏やかになるか。

 

パケ代気にしていきたくないなと。

 

 モンダイはパジャマだ。手術後、どこまで腕があがるかはあげてみるまでわからないことから前開きが推奨。診察もしやすいことから、前開き。家に一枚もないことに気づいた。

 

 術後専用の下着、胸帯もいる。どんな状況で自分が手術後に家に帰れるかわからないので洋服も前開きじゃない『かぶり』もので来ないほうがいいといわれた。着ていった洋服が着られない可能性すらある。手術ってそういうものなのだ・・・。

 

 2週間のうちに病院は3回。他の臓器に転移がないかどうか、MRIでみたり、乳頭までしこりがないかどうか確かめたり・・・。血液検査もとても大事。その結果に毎回、ドキドキ。他のところに転移がないという知らせを受けたときはうれしかった。でもこのドキドキは手術後の検診のたびに続く長い道のりの始まりでしかない。

 

 で、入院前日に会社で「乳がんになりまして、あすから休みます」、と宣言して入院となる。このとき初めて聞いた人ももちろん多く、みんなリアクションに困っていて、申し訳ないなあと思った。

 

 家族に伝えず、会社にフルオープンで伝えることになるので入院までの3週間、母にどう伝えようかともんもんとした。が、結局伝えられなかった。近しい人や友人も誰にどこまで話すか、相当悩んだ。

 

 自分事になりすぎて具合悪くなる人もいるだろうし、伝えられて困る人もいるに違いない。3週間使って伝えられる人、伝えなくてはならない人には伝えて、伝えない人には悟られないようにしていた。見た目はまったく変わらず、具合も悪くないので、信じてくれない人もいるし、言った瞬間に無言になって言葉がでない人も。よそよそしくなった人もいて、仕方ないなと。社内で話せないだろうから、気を回した人もいたと聞く。

 

 これまでこそこそ撮影したり、こそこそ話したりしていたが、この会社での宣言から正々堂々とカメラウーマンの力を借りて撮影を始めた。これまで乳がん患者さんの取材をし、ドキュメンタリーを作ってきたことを知る仲間たちが次々と協力を名乗り出てくれた。会社の別のがんのサバイバーからは、乳神神社の特別なお守りとさっぱりする食べ物をもらった。「どうぞご無事のお帰りを。」こういう気遣いが勇気につながる。

 

 心配されすぎても心配されなさ過ぎてもつらい。これは後で聞くと患者さん、それぞれがそれぞれに悩んで、イラっとして、涙して・・・結論がでない問題のようだ。